大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和55年(ワ)545号 判決

主文

一  本訴原告の本訴請求を棄却する。

二  反訴被告は反訴原告に対し、金五、九六四、二七〇円と、これに対する昭和五四年一二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告の、その余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを七分し、その六を本訴原告(反訴被告)、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は第二項にかぎり仮に執行することができる。

ただし、反訴被告が金三、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一申立

一  本訴原告、反訴被告(以下たんに「原告」という)

(一)  別紙(一)の第一のとおり

(二)  反訴原告の反訴請求を棄却する。

反訴訴訟費用は反訴原告の負担とする。

との判決を求め、反訴原告勝訴の判決に仮執行宣言が付された場合には、担保を条件として仮執行免脱宣言を求める。

二  本訴被告、反訴原告(以下たんに「被告」という。)

(一)  別紙(二)の第一のとおり

(二)  原告の本訴請求を棄却する。

本訴訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  本訴請求原因

別紙(一)の第二のとおり

二  被告の答弁

(一)  本訴請求原因一の(一)、(二)、三の(2)の各事実は認める。

(二)  同一の(三)、二の各事実は否認する。

(三)  同三の(1)、(3)は争う。

三  反訴請求原因(本訴抗弁)(以下たんに「反訴請求原因」という)

別紙(二)の第二のとおり

四  原告の答弁

(一)  反訴請求原因一、二の(2)、三の(二)の1、2の各(1)、(3)、三の(三)の1、2、3の各(1)、(3)四の(七)の各事実は認める。

(二)  同三の(一)の(1)、四の(一)ないし(六)の各事実は否認する。

(三)  同三の(三)の4の事実は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本訴請求原因一の(一)、(二)、三の(2)、反訴請求原因一、二の(2)、三の(二)の1、2の各(1)、(3)、三の(三)の1、2、3の各(1)、(3)、四の(七)の各事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙第一号証、同第四号証の四、五、七、八、同第五、六号証、同第一五号証の一、二、証人平井啓、同藤川勝正の各証言と被告本人尋問の結果によれば反訴請求原因二の(1)、三の(一)の(1)の各事実が認められ、右認定に反する乙第四号証の六、九の各供述記載と原告、証人横溝サチエの各供述は、右証拠に照らし、たやすく信用できず、鑑定人江守一郎の鑑定結果によつても、右認定を覆すにたらず、他に右認定を覆すにたる証拠はない(右鑑定結果は、本件事故発生当時の原告運転車輌の速度が時速五キロメートル程度のものであることを前提とするものであるが、右速度が右のようなものであつた点の証拠としては原告の供述調書である乙第四号証の六、九と原告本人及び同乗者である妻サチエの各供述が存するのみであるところ、右の点に関する右各調書の各記載及び右各供述は、前掲証拠に照らし、たやすく信用できない)。

三  成立に争いのない乙第三号証の六ないし九、同第四号証の八、同第五ないし七号証、同第九号証、同第一〇号証の一ないし六、同第一一号証の一ないし八、同第一五号証の一、二、同第二〇号証の一ないし三〇、同第二一号証の一ないし七、証人平井啓、同藤川勝正、同網川晃二の各証言、被告本人尋問の結果と、これらにより真正に成立したものと認められる乙第八号証、同第一二号証の一ないし一六、同一三号証の一ないし八四、同第一四号証の一ないし六一、同第一七、一八号証によれば反訴請求原因三、四の(一)ないし(四)の各事実を認めることができ、右認定を覆すにたる証拠はない。

四  以上の事実によれば反訴請求原因四の(五)については金一、五〇〇、〇〇〇円の限度において、認めるのが相当である。

五  また、以上の事実によれば、反訴請求原因四の(六)については、以上の損害合計金七、五七二、二七〇円から、すでに填補された金二、一五〇、〇〇〇円を控除した金五、四二二、二七〇円の約一割に相当する金五四二、〇〇〇円の限度において認めるのが相当である。

六  反訴請求原因四の(八)については、仮りにその主張事実が認められたとしても、それだけでたゞちに本件事故により原告が負つた傷害によつて生じた原告の損害ということはできないから、右主張はそれ自体失当である。

七  以上の事実によれば、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、被告の反訴請求のうち金五、九六四、二七〇円と、これに対する昭和五四年一二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行宣言と、その免脱宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大見鈴次)

別紙(一)

第一 請求の趣旨

一 原告が、昭和五四年一二月二〇日午前九時〇〇分頃、北九州市小倉南区朽網二〇三二番の一前道路上において発生させた交通事故に基き、被告に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二 請求原因

一 交通事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一二月二〇日午前九時〇〇分頃

(二) 場所 北九州市小倉南区朽網二〇三二番の一前道路上

(三) 態様 右日時場所において、原告は普通貨物自動車(福岡一一せ二三七二)を運転進行中、幅員約四メートルほどの狭い道路で対向自動車と離合しようとして、道路左端に自車を寄せて時速約五キロメートルの速度で進行しているうち、左側歩道上を対向して歩行していた被告に気付かず、「痛い」という声で停車して、下車してみたところ、歩道上に立つていた被告から、「あなたの車の左バツクミラーが、私の左肩にあたりましたよ」と言われたもの。

二 損害の不発生

右「態様」に記載した通り、右接触は(発生したとしても)極めて軽微である。

即ち、原告運転車両のバツクミラーは、可動式であつて(手でも動かせる)接触や衝突による衝撃が緩和される構造である。そのうえ、原告は対向車と離合のため時速約五キロメートルの低速で進行しており、被告に接触したとしても、バツクミラーと被告の左肩部分とのみであり、その余の車体部分とは全く接触・衝突はなかつた。

被告は、歩道上を歩行中であつたが、全く転倒しなかつた。

従つて、本件「事故」は、被告に対し、何らかの傷害を与えるような程度のものではなかつた。

三 確認の利益

(1) 被告は、本件事故により「傷害」をうけたとして

小倉南区朽網所在 平井整形外科医院

において、右事故当日より治療をうけ、更に同月二六日より入院し、現在に至つている。

しかもこの間、被告の夫を介して、しばしば金員の支払いを要求するので、原告は、被告が果して真実傷害をうけたかを内心疑問に思いつつも、

(2) 事故当日 二万円

五五年二月一五日 二〇万円

同年三月八日 一三万円

同年四月二二日 二〇万円

を支払い、また平井整形外科に対しても治療費として、

同年三月四日 一二〇万円

を支払つてきた。

尚、被告は原告契約の自賠責保険によつて、同年二月初旬仮渡金四〇万円を受領している。

(3) しかも、被告は現在、如何なる理由か平井整形外科に入院し乍ら、同院では治療をうけず、健和総合病院に通院治療をうけるという変則的状態である。

原告は、今日では、被告の負傷はなかつた、従つて損害賠償の義務はないと思料するものであるが、原告(の夫)から、原告又は原告の代理人に対し治療費を支払わねば家に押しかけるとか、金員の支払いを要求(その請求総額は目下明らかではない)して、電話をしばしば、しかも長時間にわたりする有様で、原告側はその対応に苦慮している。

よつて、裁判所において、原告は被告に対して損害賠償債務を負わない旨確認を求める。

別紙(二)

第一 反訴請求趣旨

一 原告は被告に対し、金六、九二五、〇三七円及びこれに対する昭和五四年一二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに第一項につき、仮執行の宣言を求める。

第二 反訴請求原因

一 交通事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一二月二〇日 午前九時〇〇分

(二) 場所 北九州市小倉南区朽網二〇三二の一

(三) 加害車両 普通貨物自動車 福岡一一サ二三七二

運転手 反訴被告

保有者 反訴被告

二 原告の責任

(1)被告が、前記日時場所に曽根方面から行橋方面に向つて歩道を歩行中、対向して、普通貨物自動車を運転して進行していた原告が前方注意義務を怠つたために加害車の左バツクミラーを被告の左肩に接触させたものであり、(2)原告は、本件加害車両の保有者(3)として、自賠法第三条に基づく責任が生じる。

三 傷害の部位、程度

(一) (1)本件事故により、被告は、頸部捻挫、左肩打撲等の傷害を受け(2)左のとおり、治療を受けた。

(二) 入院

1 (1)平井整形外科医院に(2)昭和五四年一二月二六日から昭和五五年五月六日まで(3)入院。

2 (1)九州労災病院に(2)昭和五五年五月一三日から同年五月二一日まで(3)入院。

(三) 通院

1 (1)平井整形外科医院に(2)昭和五四年一二月二〇日より同年一二月二六日まで(3)通院。

2 (1)健和総合病院に(2)昭和五五年三月四日から同五六年六月一日まで(3)通院。

3 (1)九州労災病院に(2)昭和五五年四月二五日から同年五月一〇日まで(3)通院。

4 岡田鍼灸科療院に昭和五五年五月八日から同年九月三日まで通院。

四 損害

(一) 治療費 金三、五三四、三六〇円

1 平井整形外科に三、〇五五、五六〇円

2 九州労災病院に一四、二〇〇円

3 健和総合病院に一四、六〇〇円

4 岡田鍼灸科療院に四五、〇〇〇円

(二) 入院雑費 金一五六、九四九円

(三) 通院費 金一六五、三〇〇円

(四) 休業損害 金二、二一五、六六一円

被告は、事故当時、株式会社網川組に従業員として、雇用されていたが、本件事故により、昭和五四年一二月二〇日より、昭和五六年六月一日まで一七ケ月間の休業を余儀なくされた。

被告は、株式会社網川組より、月一三〇、三三三円の給料を受けていた。

(五) 慰謝料 金一、七〇〇、〇〇〇円

被告は、本件事故により、五ケ月に及ぶ入院生活及び一五ケ月に及ぶ通院生活を余儀なくされ、人並みの生活を送ることができなくなつている。

右人・通院治療につき、被告の精神的苦痛を金員をもつて慰謝するとすれば、少なくとも金一七〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 金六〇〇、〇〇〇円

被告は、本件事故の解決方を弁護士に依頼し、その報酬として右金員を支払うことを約した。

(七) 損害填補 金二、一五〇、〇〇〇円

本件事故により、被告は、自賠責保険より金四〇〇、〇〇〇円、任意保険より金一、二〇〇、〇〇〇円原告より、金五五〇、〇〇〇円の損害填補を受けた。

(八) 付添料 一、一六六、六六七円

被告が、入院中、被告の夫訴外網川晃二は、子供三人の世話を含む、家事をするために昭和五四年一二月二六日から昭和五五年五月末日まで、当時勤務していた株式会社網川組の休業を余儀なくされた。

訴外網川晃二は、株式会社網川組より、月二三三、三三三円の給料を受けていた。

233,333×5=1,166,667

五 よつて、被告は原告に対し、反訴請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例